タイ・イサーン記11

イサーンへの西の玄関口の通称コラート

ピマーイ遺跡から60kmほどの中都市、正式な都市名はナコーンラーチャシーマー、
標高200mから300mの大高原の中心だ。
本来、コラートから一日掛けてピマーイへ行くつもりだったので、大助かりだ。

彼女の知り合いのホテルへ直行、

AC,TV,風呂、冷蔵庫、皆付いて20畳位の部屋、快適だ。
彼女が部屋まで付いて来て、電気の付け方、風呂の入れ方、

冷蔵庫の使い方、ひとつひとつ、教えてくれる。

そして、
「気を付けてヨ」の連発。
「ドアがノックされても絶対開けては駄目だヨ」




近くの巨大なデパートへ、
車の中で彼女に胸豊剤の話をしたものだから、あちこちと探し捲くる。

ここでも、そのものずばりは売ってない。
発癌剤の危険性が有り、目下詳細に分析中、

結果が出るまで発売禁止処置が取られているのだと説明を受ける。
「同じようなものです」
と、フランス製の類似品を次々に紹介されるが、良く判らないので断る。



「日本食を食べよう」と言う事になる。
古時計や骨董品が、壁いっぱいに品良く飾られ、



落ち着いたレストラン、
日本酒の瓶が並んでる。
久し振りに日本酒に有り付けたと唾を呑み込む。
 ところが、
「これは、みんな、お客さんの物です、
日本のお客さんが日本からお帰りになった時に持参し、
此所にキープして有るのです」
残念、
「中国酒は?」

「店には置いてないけど、直ぐ其処の酒屋さんで売ってます。

ここで飲んでも構いませんよ」
彼女と買いに出る、タイでも「一寸」が大変、
クタクタの足を引き摺って、それでも、10分もしたら酒屋。

紹興酒とワインをぶら提げて戻る。


湯豆腐、烏賊焼き、牡蠣料理、等々で飲み始める。


30がらみの洗練された美人が入って来て、丁度、彼女の向こうの席に坐った。
しなやかな手付きで煙草を掴み、静かにビールを飲み出した。
携帯でのやり取りは日本語、一寸、タイ訛りが有る。
丁度、こちらの彼女と頭が重なった位置、いやが応でも向こうの一挙一動が視線に入る。



所謂、キャリアーウーマン風だ。
やがて、60がらみの日本人の男性が入ってきて前に坐り、書類を挟んでやり取りが始った。



我々の席では、ワイン好きの彼女と好みの紹興酒に有りつけた私、

ピッチが上がる。
結局、紹興酒とワインが空になった。
旦那は相変わらずコーラだけだ。

「彼の運転していた車で、120kのスピードで木にぶつかったのヨ..」
彼女の日本語も完全では無く、
アルコールが回って来ると
早口になりタイ語も交じるから、完全に理解出来ない。
どうも、彼は事故の責任を感じて彼女と結婚したらしい。
「私がまだ小さい時、父母が別れて、親戚に預けられたの。

だから、学校は行ってないの、タイ語も英語も書けないヨ。
日本で働いて、弟と妹をハイスクールを卒業させたの、
でも、彼が愛してくれるから幸せ」

マリアの様な笑顔がこぼれる。

突然、向こうの二人が激しく言い争いしだした。
男「インボイスが無いなんて、そんなの、話にならん」
女「私は、ちゃんと送りました」
女も、猛然とやり返す。

30分程、小声、大声の遣り取りが有って、
男が、
「やってられネーヤ」と捨て台詞を残して席を蹴る。
「どうぞ、どうぞ」
女も開き直った様だ。紅潮した顔付きで宙を見やる。
と、今度はウイスキーのストレートを飲み出した。
どっちが良くてどっちが悪いのか分からない。
何か物語がありそうだ、
いずれお金の絡む話なのだろう、
私達、私には縁のない話だ。
もし私に小説家の才があるなら、
あっちの女性、と、こっちの女性を書いてみたいものだ。




二人が部屋まで送ってくれた。

また、「気を付けて」の連発。
「鍵をちゃんと締めて、ノックが有っても開けたら駄目ヨ」

「まだまだ、子供出来るチャンス有るよ、頑張ってね」



二人は手を組んで帰って行った。
旅は面白い。

つづく

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