春の句

2016年
貝寄風にちちははの声紛れけり    
あとさきに風付いて来る四温かな   
万葉に詠まれし里や山笑う      
早春の畦に寄添う地蔵かな      
寒卵割ってしがらみ解きにけり    

若者に席を譲られ日脚伸ぶ
啓蟄や自慢話の種尽きず
遠き日をぐっと手繰りて青き踏む
掌に陽射しを掬う春爛漫
風呂敷の藍の香りや水温む

木も鳥もここぞとばかり衣更     
鳴き龍をポンと鳴かせて春惜しむ   
ゆったりと言の葉つなぎ若楓     
人を待つ事増えて来て街薄暑     
控え目に生きて来し方衣更      

春泥や庵主の語る恋遍路     
あとさきに風従へて初蝶来  
また一つ何か弾けて夏近し   



2015年
縁切りと縁結ぶ神四月馬鹿
蓋閉じし侭のピアノや花曇り
アルバムに故人が多し花曇り
ピカソ観て喧噪に有り春の宵
花筏一つ離れて一つ寄る
いかなごが何時もの味で届きけり
トンネルを抜けるたんびの桜かな

啓蟄や後を絶たない些事大事     
啓蟄や物置隅の古箪笥        
だれそれにみな似てそうな雛かな   
古雛に月光射して古座敷       
いかなごが何時もの味で届きけり   

竹林の奥に二月の風生まる
日脚のぶ卑弥呼の墓はいずこにや
何時よりか撒かなくなりし年の豆
誤字当て字多くなりたり日脚のぶ
潮の香に水仙の香の混じりけり


2014年
指揮棒を先頭にして春の風     
春愁や銀白色の蝶番        
貝寄風や片手はみ出す乳母車    
江の電の扉開けば春の風      
膝小僧丸出しにして少女東風 

春昼の大天井の臥龍かな       
春昼や床屋の時計時刻む       
草餅は母の香りと母の味       
賽銭の大きさ迷う万愚節       
変換のミスばかり増え四月馬鹿    


2013年
水取や鯉の如くに口開けて
春雨や音有る如く無きごとく
紫木蓮仇を討ちたき事有りて

春潮や房州白浜野島崎
春昼や三時の時報鈍く鳴る
網背負う海女上がり来て児を抱く    
啓蟄の今日何時もより長湯する    
いかなごやあの人のあの家の味     

青鞜や明治大正昭和平成        
初島の向こう大島実朝忌      
春寒や路上芸人つととちる    
立春や常より浅きたなごころ   
どう見ても喧嘩腰なり猫の恋   


2012年
啓蟄や大器晩成にて終わる
白木蓮ますます空を青くせり 
フェルメールの窓辺が好きや風光る
白木蓮孔子の如き白さかな
亀鳴くや隣近所に知人無し

何時もより歩幅大きく青き踏む     
犬猫も山河も人も四温かな      
啓蟄や今日二つ目の忘れ物      
そよと風つなぎてきたる四温かな   
つくばいの音転がりて春障子     

寒木瓜の目立たぬ様に目立ちけり     
歳時記の表紙の染みや春遅し       
ゴミ捨ての行きも帰りも春隣       
梅見して竹馬の友とはぐれけり      
不器用な母でありけり針供養       


2011年
草餅の半分ずつのつつがかな    
大試験終えし息子の鼻の穴     
八幡の銀杏の辺り春の雷      
紫木蓮ユダの如くに揺れにけり   
喉仏鳴らし春水流し込む 

行きは白帰りは紅の梅であり
雪女郎修羅場を抜けて出でしかも
梅探りがてら十郎五郎かな     
悪友は痴呆で春を迎えけり    

いつまでも三つ違いや雛祭り    
混浴をつと抜け出して雪女郎    
人も木も呟きながら四温かな 
坂降りて坂登りたる梅見かな    
夕暮れて陽の残りたる梅見かな  



2010年
行く春や耳掻いてまだ痒き耳 
行く春やまだまだ出来ぬ逆上がり  

あれもこれも水に流して良寛忌   
ふらここを大きく漕いで天下取る  
シャッターを押して頂き風光る   
花冷えや父の形見の銀時計     
ふと会話途絶えてしまふ春灯    

声変わりらしき少年風光る      
何時からか余生となりて日脚伸ぶ  
鴨一羽ひっくり返る西行忌      
彼奴の名が思い出せない地虫出づ  
玉響の出会いと別れ鳥雲に           

意地張って痩せ我慢していぬふぐり      
春風や結んで開く赤子の掌           
小吉中吉大吉春が来た             
天狼や首動かせば首が鳴る           
吉報も訃報も届く二月かな           


2009年
ランドセル跳んで跳ねたり山笑う
陽あたりを選びて桜散りにけり
佳き人と乗合いたくも花筏
待ち人のもう来る頃や花の冷

花冷や嵯峨野祇王寺吉野窓
空耳か男雛女雛の睦言か      
春愁や紙人形に瞳なし       
雪国の人より雪の便りあり     
朧から朧へ白きうなじかな 
    
啓蟄や今日図書館は休館日     
寒月を上り下りに別れけり
擦れ違う佳き人の香と梅の香と  
立春や鳶の番の大旋回      
母によく似た人に会う梅見かな  

2008年
水温み緋鯉ゆるりと反転す
在りし日の交換日記青き踏む

侘助は母の形見や雨上がる
畑打つ老女の背なの丸きかな
春昼や売れ残りたる丹波焼
書きさしの恋文見付け春愁う
壷焼きや江ノ島に男坂女坂

大寒やもう投げつける石が無い
節分の妻目くじらをたてており
墓碑銘にこころと有りて春浅し
二ン月になると菩薩が観たくなる
曙の妖しき月や冴え返る


2007年
みな首を傾げていたり葱坊主      
木瓜咲いてやたらと疼くものもらい   
春眠や時々止まる古時計        
退屈の中身が違う春の宵        
春寒や前屈みして歩く癖        

啓蟄や世に出ぬ虫も有りぬらむ    
啓蟄や日毎日毎の物忘れ       
旧道を稚児行列や犬ふぐり      
北面の武士にじり寄る朧かな     
富士までを見渡す道や犬ふぐり    


2006年

懐の奥の奥にぞ桜貝
お隣のこまめな亭主風光る
春雷や玻璃に張り付く己が影

街騒のおさまりてより虎落笛
何か良いこと有りそうな春隣
富士ばかり観てる公魚釣り師かな
あれこれと手のつかぬまま日脚のぶ
眦を立てて物問う余寒かな

2005年

耕牛を仕草で叱る農夫かな
春昼や角の床屋に客一人
貝寄風や爪透き通る薬指
踏青や靴脱いで靴下も脱ぐ
蝶々や町内会長元校長

ペチャペチャと猫が水飲む目借時
一歩二歩幼児寄り来て暖かや
涅槃西風老友自転車を買ふ
ここだけの話の弾み春炬燵

逆光を背に背に木の芽木の芽かな    
初午や紅き物より箸つつく       
優しきは梅の蕾の固さなり       
厨よりトトントントン春立てり     
息ついて吹いて窓拭く二月かな



2004年

葉も皮もあんこもよろし桜餅   
人いとし人にくらしや木瓜の花  
あれこれと語り尽くして朧かな  

音もなく垂れ始めたる柳かな  
割礼も出征もなし桃の花  
げんげ田に遊ぶ童や風とまる
秘め事は胸の奥底さくら貝
大試験終わりてボール蹴りにけり

味噌汁の具は採りたての土筆なり
春昼や無理やり刻む猫の爪
タンポポの其処だけ光る日和かな
長椅子の長さ知りたり春の昼
妻の手を握るでもなし水温む

京菓子の薄紅色や春障子
諍いのわけは些細や鳥交かる
聞き流す妻の小言や水温む
嫌いとか好きとかいいて鳥交かる

木の橋をヨチヨチと来て水温む
啓蟄や思い出せない置きどころ
眦をきりりと締めてひひなさま
水草の揺らいでいたり水温む
猫が水飲む音妖し水温む

涅槃西風友自転車を買いにけり
涅槃西風老友自転車を買ふ
よちよちと橋渡り来て水温む
友来たり飯も炊けたり木の芽時
碁敵や飯も炊けたる木の芽時

日溜りに侘助朽ちていたりけり
山並みの如き年月山笑う
富士ばかり観てる公魚釣り師かな
蛇口より水ほとばしり寒明ける
膵臓に異常の便り春寒し

白波の海を見てより梅見なり
観梅やまず升酒の香りかぐ 
月並みに年月重ね蜆汁
猫に紐つなぎて散歩日脚のぶ  
禁煙をまた試みる余寒かな

トンネルの次もトンネル春遅し
梅見して青空ばかり見ていたり
侘助の一本咲かず仕舞いなり
針供養ますます丸き母のせな
トンネルの次は鉄橋日脚のぶ


2003年

行く春や足の痒みを足で掻く
一つづつ草の芽の名を確かむる
風船を抱きしめてより放ちけり    
春灯にかかげ眼鏡を拭きにけり   
奈良街道行くも帰るも馬酔木かな  

髪の毛の有無が話題や風光る    
棟梁の腰手拭や鳥曇
煮え滾る男料理や春浅し
戦いの始まるとぞや鳥帰る
梅一枝手折りし少女微笑みぬ

白梅の一片宙に留まりぬ
紅梅の一片頬をかすめけり
紅よりも白梅好むは母ゆずり
白梅散り頻る初キッスらし
白梅を押し花にしてつつがなり


2002年以前

刃物屋の親父丸顔風光る
春燈や丹波笹山峡の町
花冷えや旧街道の石地蔵
娘等の靴の高さや青き踏む
鎌倉をしきりに白き蝶が舞う

ひこばえや餓鬼大将の名誉傷
薄氷や郵便受に仕舞う鍵
帰り花中国残留孤児の母
隙間風無口な男となり果つる
風余るとき枯れ草さみしかりけり

初景色手の中に富士入れてみる
大落輝みて水仙の匂いかな
節分や老いて確かむ力瘤
身に詰まる話の後や鬼やらい
立春や赤多きネクタイを買ふ

マリア像微笑みおらる踏絵かな
恋猫を睨んでいたる爺やかな
足裏に届く三寒四温かな
野良猫の上目遣いや浅き春
忘れるは忘れぬ事や鳥帰る

目刺焼く妻つくづくと母似なり
畑打つ男ときおり富士仰ぐ
ものの芽のふくらみ具合触れてみる
鎌倉を歩めば一人静かな
ヴィーナスの石膏春の日に曝す

棒切れで余命を計る虚子忌かな
花屑を千鳥に踏んで奥の院



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