秋の句
2016
露天風呂一人占めして涼新た
杜甫よりも李白が好きや濁り酒
日帰りの旅より戻り水を打つ
救急車近づいて来る残暑かな
樹木葬と腹を決めけり今日の秋

トンネルを抜ければ稲の穂波かな
竹林を風が過れば秋の声
カンナ燃ゆ下校の少女脛出して
鰯雲何か忘れているような
石庭に彩り添える酔芙蓉

安曇野の一両電車走り蕎麦
鎌倉の裏の抜け道吾亦紅
底抜けに蒼き青空大花野
参道を上り詰めれば秋の声
秋光がかくも柔らか千曲川
秋光がかくも柔らか小海線

樹木葬と腹を決めけり鰯雲
樹木葬と腹を決めけり9月尽
樹木葬と腹を決めけり今日の秋
日帰りの旅より戻り水を打つ
救急車近づいて来る残暑かな

菊なますその頃母の髪黒き
ゆったりと写経一行小鳥来る
逆上がり出来た少年天高し


2015
祭笛太鼓手拍子足拍子         
台風の中心に居て米を研ぐ       
長針と短針重なる神の留守       
異人墓地見てより秋の深まりぬ     
一村が釣瓶落としに染まりけり     

秋風や会いたい奴は死に急ぎ     
吊り橋の真ん中に来て秋の風     
秋風や黙って入る無言館      
秋風や最近とみに膝笑う      
安曇野の空の青さや赤蜻蛉      

夕端居病歴自慢となりにけり     
秋蝶の不意と飛び入る無人駅     
饒舌の人と相席トコロテン      
石一つケルンに添える晩夏かな    
秋風や遂に開かぬ広辞苑       


2014
新米が快気祝いと届きけり
小鳥来て我が馴れ初めをとかく言う
栗飯が美味いと向う三軒両隣
行き行きて人恋しきや大花野
逝く秋や地蔵仏に小銭置く

人影がつと忍び寄る神の留守     
手と足の爪切ってより冬支度    
鰯雲人に話せぬ事も有り      
村時雨地蔵は赤を被りけり     
芦ノ湖の霞む鳥居や初時雨     


2013
山茶花の咲き初む紅の仄かかな
その墓にそり添いて咲く野菊かな
敗荷やふと思うのは白虎隊
秋霖やゴミ捨てるのが吾が努め
シャンソンを奏でる如く枯葉散る

あちこちに痛みが走り秋の風     
錠剤の一つ転がる秋思かな      
秋の海子連れ犬連れ独りぼち     
無花果の感触祖母の如くなり     
新米をザクリとほぐす杓文字かな

萩の花我が身を削るごと散れる   

花野から花野へ雲も人も行く    

じゃんけんは何時も負けなり穴惑い   

五義民の首切り塚や稲の花      

露草の愛しきまでの青さかな    

捨て台詞残したくもなる残暑かな   

朝顔の二輪寄り添う朝かな      

原爆も原発もいや鳳仙花       

天の川出羽三山を跨ぎけり      

極暑かなだらりと双手ぶら下げて   


2012
紅き実のどれもが紅や鳥渡る
母の呼ぶ聲有りて秋時雨
秋篠の苔の蒼さや秋の雨
とうろうや何処か重なる己が影
秋草の一つ一つの名を忘れ

曼珠沙華その時そこに咲く不思議
書架の本並び替えたる良夜かな
つくつくよ何故にそんなに鳴き急ぐ
淡紅も鮮紅もよし酔芙蓉
新涼や脛まで浸す貴船川

歳時記のほつれ繕う良夜かな     
手のひらを重ねてみたき八つ手かな  
小鳥来て我に尋ねし恋の事      
渡り鳥切なきことを残しなむ     
言いたきをそこにとどめて十三夜 

碑の文字を小指でなぞる晩夏かな
原爆忌富士を見てより黙祷す
眼瞑れば赤鬼青鬼原爆忌
界隈に表札絶えてカンナ咲く
蜩や刻々変わる海の色

2011年
途方なくでかい話や大銀河 
つましくて時に艶なり吾亦紅 
稲穂満つ佐渡何処からも鬼太鼓 
香ばしき日々送り居り菊人形  
どことなく母の味する菊膾  

行き行きて佐渡は晩夏の波の上
今日の秋白きものより白くなり
何回もお辞儀する母秋暑し
吾亦紅義理欠くことの多くなり
人生を投げる話や水を打つ

みんみんや何時もの言葉出て来ない
夢だけは火星の彼方大銀河
馴れ合いの妥協はせぬぞ源五郎
石畳音無く踏んで晩夏かな
螻蛄鳴くやつまんだ塩の味加減


2010年
藍色の瑠璃の時計やふと秋思
秋蝶のかくも健気を見届ける
山茶花の垣根に沿いて車椅子
石仏の含み笑いや石蕗の花
山茶花や若奥様の里訛り

天平の壁に溶け入る赤とんぼ
斑鳩の熟柿さながら菩薩なり
おしろいの真っ白真っ赤真っ黄っ黄
牧水の歌碑をなぞれば秋の声
斑鳩の新蕎麦古き味のして

大鍋に貝や魚や大銀河  
落し文日記途絶えて幾年ぞ   
歳時記に栞を挿して夏惜しむ
大の字になりて帰省をしておりぬ
まだ療えぬ小さな傷や十三夜

秋立つや降圧剤と消化剤
母の句集そっと閉じれば蝉時雨
新涼や坂本竜馬つと笑う
朝顔の辺りに銭湯ありしかな
口あけて居並ぶ鯉や原爆忌

2009年
焼酎を薄く薄めて居待月    
成りし恋成らざる恋も望の月  
唇の頻りに乾く無月かな    

大法螺を吹けば横たう天の川       
見付からぬ診察券や穴まどい       
真更に成りたくて行く花野かな
新涼や自らほぐす肩の凝り
安曇野の畦の地蔵や赤まんま

十六夜の月見届けて墨を磨る
新涼や余白ばかりの日記帳
玉の緒のなほいとしき晩夏かな
今日の秋採りたての地魚を喰う
手を握る事も無くなり夕晩夏

友に吐く真っ赤な嘘や晩夏光      
静々と妖しく燃えて薪能        
原爆忌天に届かぬ我が拳       
山音にふと振り返り落し文       
母の肩叩きし記憶夏終わる      



2008年

朝顔のもう褐色の種宿す     
あれからの文途絶えしままや酔芙蓉
漁火の一つが揺るる晩夏かな
彼方此方に蝉落ちている仰向けに

真白も真紅もありてさるすべり
庭石の一つを跳べば木の実落つ
秋の蝶終始無言を徹しけり
鎌倉の行く先々や曼珠沙華
橋渡る前も後ろも枯薄

2007年

名月やとっておきなる廻り道  
あの路地は行き止まりなり赤まんま
辿りたる轍の跡や吾亦紅    
馬追や青き記憶の襞めくる   
少年のつもりで歩む花野かな  

鰍鳴く里の人情深きかな    
陽炎や認知症なる元兵士    
背景は青空ばかり赤とんぼ  
生きるとは生きる事なり法師蝉
なんとなく夢湧いてくる花野かな

故郷の百日紅の真っ赤かな     
戦いを知らぬ子ばかり鳳仙花    
新涼の雲となりたる信濃かな    
流灯を女が流し男佇つ       
鎌倉の空蝉重ね合いており     

 
2006年

予報する女子アナ赤い羽根挿して
掛軸の一字が読めぬ夜長かな
漁火の一つ漂い秋深し
十月やあれもこれもと遣り残し
人恋し酒も恋しや酔芙蓉

紺色の音出している法師蝉
李白など広げてみたる夜長かな
国宝が前景なりし薄かな
色恋のあり余りたる花野かな
一生を決める話や秋刀魚焼く

他人事のように出てくる守宮かな
銀漢や渡りてみたき橋一つ
やたら火を燃やしたくなる晩夏かな
疎遠なるお隣さんの木槿かな
水引や点点点と日々日々日々

2005年

コスモスや客一人待つ無人駅
二つある案山子一つが泣きにけり
そよときて石になりたり秋の風
うたた寝てカネタタキ聞きバッハ聴き

茶柱を確かめてより今日の月
新涼や草刈鎌の錆落とす
爽やかや残すものなき身のまわり
新豆腐ゆらりと揺れて止まりけり
あれこれと語り過ぎたる夜長かな

乗換えの駅に着きたる暑さかな
遠花火男二十八歳逝く
炎天を雲水が来て赤信号
いつもより日差しの強し原爆忌
小田原を過ぎて益々残暑かな

2004年

夕焼けを横切ってゆく黒揚羽
便りして後は待つのみ十三夜
露草の紺にたじろぐ齢かな
けら鳴けばはたと気になる無精髭
京よりも大阪せわし西鶴忌

四国への架け橋増えし子規忌かな
讃岐には溜池多し唐辛子
何時よりか無口が性や夕月夜
かなかなも途切れ途切れになりにけり
予報士の胸元豊か天高し

虫時雨天気予報を流し見る
蜩は助命を乞うておるごとし
鉦叩深きは人の深さなり
何時よりか無口が性や十三夜
馬追を聞きながら青墨で書く

薬指つと痺れたる晩夏かな
西口を上って下りる大暑かな
青栗を蹴り蹴り下る男坂

福引券雨にまみれて祭り果つ
浴衣着て益々小股切れ上がる
片陰の悲しきまでの一人かな
ステテコや憚り切れぬ世間体
百日紅まだ極楽の夢をみず



2003年

爽やかや首一つ出る子の背丈
秋茄子や益々肥えし恋女房

生甲斐の変わりつつあり障子張る
草虱ひとこと多き奴と居る
一山を裏返したる野分かな
菊なますその頃母の髪黒き
身に余る日々続きけり菊日和

2002年以前

おしろいのどかりと咲いて妻帰る
窓枠を富士はみだしてとろろ喰う
玉虫や箪笥のおくにある記憶

秋の海やがて釣り人ばかりなり
くるびしをつけて確かむ秋の海
秋時雨子規絶筆の三句かな
秋深し人間ドックに停泊す
愚痴一つ二つで止める十三夜

十三夜駆け込み寺は谷の底
十六夜の月昇り切り腹決まる
いさかいてバッハ聞きカネタタキ聞き
新涼や青墨で書く一行詩
神無月真昼の電灯ともりけり

赤トンボ光集めている如し
あの橋を渡れば赤のまんまかな
馬追は追憶と云う字が似合う
晩秋の富士全貌は大き過ぎる
晩秋の夜汽車財布を無くしけり

文化の日木簡あまた出しかな
露草の紺見て勇気涌いて来る
飲み掛けの茶に柱あり松手入
十月やうまいものより先に食ふ
秋風やひとつ余計なことを言ふ

残る虫逢う約束をほごにして
花野から花野に抜けて振り向かず




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